透明性が何よりも重要

金融サービスの分野でリスク管理部門の重要性を高めるにはさらなる統合が必要

Miriam Gillinson
8 June 2019

金融サービスの分野では、監督当局による規制強化を受けてさまざまな部署が対応を迫られており、一歩間違えると多額の罰金が課され、信用力も著しく低下してしまう恐れがあります。進化しているリスク管理部門の役割や、デジタル化がもたらすメリットについて、Deutsche Bank Americasのリスク管理部門前COO、Marc Walby氏にお話を伺いました。

COMPASS: リスク管理部門が果たす役割はここ数年どのように進化してきたのでしょうか。

Marc Walby: 金融サービス業界のリスク管理は、2008年の金融危機を受けて激変しました。この変化を主導したのは、規制を強化してきた監督当局であり、そしてまた、過去の過ちを繰り返さないためにはガバナンスやリスク管理手法を強化する必要があることを自覚していた個々の金融機関です。

金融危機以前は、リスク管理部門の社内での重要性はそれほど高かったわけではなく、通常は信用リスクや市場リスク、流動性リスクの管理、取引の承認、基本的なポートフォリオ管理など、ありきたりのリスクを管理対象にしていました。

そのため、リスク管理そのものを社内の最重要部門へと押し上げて、戦略的計画策定プロセスやビジネス上の意思決定プロセスとより緊密に統合する必要がありました。全社的なリスクについても、また、オペレーショナル・リスクやテクノロジー・リスク、風評リスク、コンダクト・リスクなどの特殊なリスクについても、より包括的に考える必要がありました。こうした状況ではリスク管理部門の責任が重くなり、業務も複雑になるため、新しいやり方が必要になりました。考え方や仕事の進め方はもちろん、新しいフレームワークでの作業方法、より緊密な企業規模のコラボレーションを確立するための方法などです。

リスク管理部門が果たす役割をどのようにして上のレベルに押し上げるのですか。

Marc Walby:最も重要な対策は2つあり、1つは最高リスク管理責任者(CRO)が取締役会レベルで重要な地位を占めるようにすること、もう1つはリスク管理業務の独立性を確保できる組織体制を確立することです。

また、全社的なリスク戦略や詳細なリスク選好度を決めることも重要です。そのためには、リスク部門が経営上層部や各事業部門とより緊密に連携した取り組みを行えるようにする必要があります。これは、ビジネス戦略やその戦略に特有なリスクに関して共通の認識を持つ必要があるからです。すると今度は、取締役会や経営上層部、社内のその他の部門とのさらなる緊密な連携が求められます。そうしたところには、必要なデータが揃っている可能性があります。

より緊密な連携を実現しようとすると、金融機関は他業界からどのようなことを学べるのでしょうか。

Marc Walby:日々の業務に追われていると、一歩さがって状況を見極め、型にはまらない考え方をして他業界のベストプラクティスを参考にすることを忘れてしまいがちです。他の多くの業界では、非常に複雑な環境で製品を開発・製造・販売する必要がありますが、こうした環境は監督当局によって厳しく精査されています。航空宇宙や医薬品などが典型的な例で、こうした業界では連携した作業や透明性、信頼できる監査証跡が極めて重要になります。

こうした業界では高度なワークフロー・ツールが使われていますが、これは金融サービス業界でも有効に活用できる可能性があります。こうしたシステムでは、複雑な製品の開発・承認・製造に必要なコラボレーションを、部門や担当領域の垣根を意識することなく実現することができます。綿密な承認プロセスがそれぞれの業務に組み込まれており、基準点や監査証跡の扱い方が明確に規定されているため、信頼性が高いのです。そういった意味では、複雑で厳しい社内基準と当局基準の両方を満たさなければならない金融サービス関連商品の開発・販売でも、そのまま利用できます。

デジタル化はリスク管理にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

Marc Walby:デジタル化や機械学習についてはいろいろと言われていますが、そうしたものをリスク管理に活用する取り組みはまだ始まったばかりだと思います。デジタル化や自動化が導入されれば、有用な情報を生成することでリスク管理能力を大幅に高められる可能性があります。重要なリスク関連情報をいったんデジタル化してしまえば、あとはそのデータをベースにして他の機能、たとえばアルゴリズムや高度な分析機能を付加していくことができます。

データやテクノロジーは、新しい商品やサービスの開発でも非常に重要な役割を担います。社内の業務部門やリスク管理部門には、新しい商品のリスクを確実に理解し、それをどのように測定・監視するのかに関してこれまで以上に責任が重くのしかかっています。リスクを管理する仕組みは常に進化し続けており、そうした仕組みを方針や手順、基準点に従って体系化したり、必要な要素をビジネス創出プロセスやリスク管理プロセスと一体化したりできる能力の重要性がますます高まっています。

リスク管理と共にデジタル化の最大の恩恵を受けるのは、他にはどのような分野があるのでしょうか。

Marc Walby:顧客が利用するアプリケーションを除けば、顧客の受け入れや顧客ライフサイクル管理、取引の監視をデジタル化することにより、コンプライアンスや本人確認(KYC: Know Your Customer)などの管理業務で大きなメリットがあると思います。顧客トレーニングや顧客との関係の維持、業務内容の監視などもデジタル化すべき時期に来ています。顧客にとっては効率性が大幅に高まり、サービスもより使いやすくなる可能性がありますので、ビジネス上も確実にメリットがあるでしょう。

Marc Walby氏はDeutsche Bank Americasのリスク管理部門の前最高執行責任者(COO)です。

プロフィール

Marc Walby氏はDeutsche Bank Americasのリスク管理部門の前最高執行責任者(COO)です。2008年の金融危機を受けて業界や監督当局から新たな要望が出てきていた著しい成長と変革の時期に、Walby氏は米国でリスク管理の実務を主導しました。

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