Cummins社と聞いてまず思い浮かぶのは、トラックやバスのエンジンでしょう。しかし、米国インディアナ州を拠点とす
る同社は、貨物船、建設機械、採掘機、掘削機、消防車のほか、米国のトウモロコシ畑やブラジルのナッツファーム、韓国
の野菜農園向けにカスタマイズされた農業機械など、実にさまざまな用途のエンジンを製造しています。
同社がこれほど多くの特殊市場に製品を供給できるのは何故でしょう。その秘密は、200種類もの異なるエンジンを同時に
流すことができる組立ラインにあります。世界の自動車メーカーは、各顧客のニーズに合わせた製品を製造する能力、つま
り「マスカスタマイゼーション」と呼ばれるモデルの確立に長年挑んできたものの、実現できずにいました。Cummins社
は、この組立ラインにより、マスカスタマイゼーションのリーダーとして注目を集めています。
自動車メーカーは、Cummins社が切り開いた道を急ピッチで駆け抜ける必要に迫られています。大量生産のパイオニアで あるヘンリー・フォードはかつて、黒である限りどんな色のT型フォードでも提供できると冗談を言いましたが、当時に比 べれば自動車は大きく進化しました。しかし現代の消費者は、多くのメーカーの製品を選べる一方で、金太郎アメ式に量産 される自動車に不満を募らせています。
実際、メーカーが対応可能な顧客の好みの範囲は大幅に広がっています。しかし、音声で簡単に操作できる製品が増えてい る時代にあって、ほとんどの自動車は未だカスタマイズ可能なオプションが色、内装、ホイール、オーディオシステムなどに限られているのです。
ミックスアンドマッチ
「マスカスタマイゼーションにはいくつかのレベルがあります」と、Cummins社の製造システム担当ディレクターRachel A. Lecrone氏は言います。「マスカスタマイゼーションの最終目標は個別受注生産、つまり顧客1人あるいは1社の要望に100%対応した製品を作ることです。当社にも完全個別生産の例はいくつかありますが、ほとんどのラインは何千個ものオプションを組み合わせて必要な製品を作れるよう構築されています」Cummins社に勤務して23年になるベテラン社員のLecrone氏によると、同社には設計、エンジニアリング、製品仕様、製造、信頼性、顧客注文を管理する全システムをつなぎ、あらゆる部門でエンドツーエンドの可視性を実現するデジタル化された単一のプロセスを構築するという野心的な目標があります。
「当社のラインは何千個ものオプションを組み合わせて必要な製品を作れるよう構築されています」
RACHEL A. LECRONE氏
CUMMINS社製造システム担当ディレクター
この目標を達成することで、同社は製品とプロセス両方のデジタルツインを作成して、製品が適切なコスト効率で製造可能かどうかを検証するシミュレーションを実現できます。
「当社は、製品モデルをプロセスモデルに埋め込むことができる確実なモデリング機能を活用するために、このデジタルツイン構想に移行しようとしています」と、Lecrone氏は言います。デジタルツインを作成できるようになれば、Cummins社は新製品の開発時に複数のオプションをデジタル検証し、コストも時間もかかる物理プロトタイプを作成することなく最適なオプションを特定することが可能になります。
リアル+バーチャル
自動車メーカーはカスタマイズに関する顧客の要求に応えるだけでなく、将来的に予想される製品ラインナップの複雑化へ の対応にも取り組んでいます。かつて1種類のガソリン車を製造していた組立ラインでは、近い将来、従来車と自動運転車の両方が製造されることになります。ガソリン、電気、ハイブリッドなどさまざまな用途のパワートレインを搭載した車両や利用頻度が高いライドシェアサービスに特化した車両なども製造されるでしょう。
自動車メーカーが設計、エンジニアリング、製造に至るプロセスをデジタル化せずに、製造現場でいきなりマスカスタマイゼーション生産を行おうとすると、「天文学的なコスト」がかかると気付くでしょうと、フロリダ州メルボルンにあるフロリダ工科大学先端製造・革新デザインセンターのエグゼクティブディレクターMichael Grieves氏は述べます。
例えば、数千種類の車を構成する数千種類の異なる部品の在庫を抱えなくてはならないため、スペースと資金の大きな無駄が生じるだけでなく、車両の再設計も難しくなります。
「このプロセスをバーチャルに管理する方法を考えなくてはなりません」と、Grieves氏は言います。「バーチャルと実際の工場を一体となって機能するよう融合させて、まず製品のモデリングとシミュレーションを行い、次に仮想環境で生産を実行して問題がないようにする。
マスカスタマイゼーションを成功させるにはこの方法しかありません」デジタルツインという言葉はかつて、バーチャルモデルがある物理的な製品を指していましたが、今ではコンセプトが拡大し、生産プロセス全体も含んでいます。実際、製品とプロセスの2種類のツインが考えられます。
Lecrone氏は、Cummins社にとって重要なステップの1つは、設計者、エンジニア、製造員を隔てていたサイロを壊すことだったと話します。それを実現するのに役立ったのがソフトウェアでした。
「実際、さまざまなグループが連携したいと思っています」と、彼女は言います。「成功の秘訣は、新しいツールを信頼できる確かな方法で導入することです。そうでなければ、誰もそのツールを使わないでしょう」
Lecrone氏は、製品の製造方法を綿密に計画できるデジタル・モデリング手法のもたらす利益を楽しみにしていると言います。
「生産が始まると、実際の生産データやラインから入って来る情報と、自分が理論的に立てたラインの稼働予測を比較し、どこまで的確に予測できていたかを見る機会が得られます」と、彼女は述べます。例えば、特定のワークステーションがボトルネックになっていることが判明した場合、デジタルモデル上で生産データを直ちに分析し、作業内容がその作業員にとって難しすぎるのか、生産機械に問題があるのか、あるいはサプライヤーから届いた部品の品質が悪いのかを判断することができます。
「単一のデジタルプラットフォーム上に情報が揃っていれば、問題の解決も早まります」と、彼女は言います。
目的の適合性
パリを拠点に活動するアクセンチュアのサプライチェーン、オペレーション&サステナビリティ・ストラテジー責任者 Stephane Crosnier氏は、社内の基幹システムの完全統合にかかる支出を避けたい一部のメーカーは、近道を模索していると言います。
「いくつかのメーカーは他のシステムの間にプラットフォームを構築しています。私たちはこれを「管制塔」と呼んでいるのですが、こうしたプラットフォームによって統合を実現させています」と、Crosnier氏は言います。
しかし、メーカーが直面する最大の課題は社内業務の統合ではありません。念願のマスカスタマイゼーションを実現するには、供給ネットワークの製造現場で発生するボトルネックも可視化する必要があるのです。重要な部品がたった1つ欠品しただけで製造ラインが停止することもあるため、OEMはサプライヤーの工程で一時的な障害が発生した時に対策案を出せるようにしておかなければなりません。
この課題は業界で広く認識されています。アクセンチュアが2018年に発表した調査レポート『Architecting the 2025 SupplyChain』によると、よりカスタマイズされた製品や顧客仕様の実現にかかる時間の短縮を求める顧客の要求を満たす唯一の方法は、サプライチェーンの「目的の適合性」を確保することだと考えるメーカーの経営陣は79%に上ります。
かつてはOEM自体が持っていた製造機能。サプライヤーの製造機能の強化にますます期待が高まる中、専用デジタルプラットフォーム上で生産計画に関する情報を共有できる能力がますます重要になります。「サプライチェーンのさまざまな関係者の間で連携する能力が大幅に向上します」と、Crosnier氏は言います。
消費者が何を求め、メーカーが何を作ろうとしているのかをサプライヤーが知ることができれば、自社の生産計画をそれに合わせて調整することができます。それが実現して初めて、製造エコシステムは顧客の要求に完全に対応できるようになるのです。
消費者が求めるとおりの製品をつくる―これは、ヘンリー・フォードが築き上げた生産方式とは対極をなすものです。
For information on the move from Mass Personalization to Mass Customization, please visit:
go.3ds.com/alH