仮想通貨の道のりは 荒れ模様

スキャンダルにもかかわらず 支持者を増やす国家の枠組みを超えた通貨

Charles Wallace
7 June 2014

コンピュータ プログラマーが作り出した通貨が本当の価値を持つ可能性はあるのでしょうか? 世界全体では、違法なものを含めて75種類の「暗号通貨」が商品やサービスの決済に使用されています。今回は仮想通貨のこれまでの展開について考察します。

政府の造幣局ではなく、コンピュータで作り出される貨幣である「仮想通貨」というコンセプトは、一見したところ将来性を感じさせます。既存の送金サービスを利用すると多額の手数料がかかるのに対して、「暗号通貨」は世界中ほぼ無料で移動させることができます。仮想通貨は政府による管理を受けないため、為替管理とも無縁であり、ハイパーインフレや突然の価値下落が起きる心配も理論上ありません。

ところが、現実はそれほど甘くはないことが露呈されてきました。麻薬取引や通貨取引所の経営破綻といったさまざまなスキャンダルにより、仮想通貨の長期的な存続が危惧されているのです。

世界全体では75種類を超える電子通貨が取り引きされており、その推定価値は110億米ドルにのぼります。市場の90%近くを占める最大のビットコイン(Bitcoin)は、約100億米ドルの価値を有し、よく知られるようになりました。ビットコインの競争相手には、Litecoin、Dogecoin、XRPなどがあります。

仮想通貨の価値は、人々が仮想通貨を商品、サービス、政府発行通貨と交換しようとする意欲によって支えられています。金本位制度を米政府が撤回した1971年以来、従来の通貨の価値を支えてきたのは、不換紙幣(Fiat money)の根幹となる「信じる意欲」です。仮想通貨に対する国民一般の信頼は、政府発行通貨、クレジット カード、銀行間の電子商取引に対する信頼ほど強くありません。しかし、仮想通貨は人々の間に浸透しつつあります。

4億6,000万米ドル

ビットコイン取引所を運営するマウントゴックス社は、4億6,000万米ドルがハッカーによって盗まれたことを認めた後、破産を申請しました。

仮想通貨の簡単な歴史

仮想通貨は、初めて「e-gold」が登場した18年前に始まりました。ビットコインは2008年、中本哲史(Satoshi Nakamoto)と名乗るプログラマーによって作り出されました(この通貨を陰で支える人物または組織の正体は、これまで明かされていません)。当初、1コイン当たりの価値は約25米セントでしたが、その価値は、2014年初めに625米ドル、下落する前の最高時には1,176米ドルまで急騰しました。シティバンク社でG10為替戦略部門グローバル 責 任 者 を 務 めるSteven Englander氏 は、ビットコインが登場したのは従来の通貨の地位が揺らいだ2008年の金融危機の最中であると指摘しています。「完全ではないかもしれませんが、アルゼンチンやベネズエラのようなハイパーインフレに見舞われた国では、ビットコインはかつてない最高の危機回避策です。ただ、それは例外的な事態ですが。」

企業にとって仮想通貨の最大の魅力は、送金コストがほとんどかからないという点です。小売取引であれば、MasterCardやVISAの利用時にかかる3~5%の手数料は、仮想通貨を利用すれば不要です。不正使用を補償するための手数料も事実上課せられません。

ロンドンでビットコム投資コンサルタント会社を経営するJavier Marti氏によれば、そのような送金の仕組みはB2Bユーザーにもメリットがあります。Marti氏のある顧客は最近、取引銀行ならば通常は200米ドルかかるところ、25米セント相当の手数料で100万米ドルを英国から南アフリカに送金したそうです。

ハッキングと闇取引

ビットコインは、取引を監督する中央の情報センターが不要になるように設計されています。その代わり、コインが発行された最初の日から、あらゆる取引が電子的な公開台帳に記録されます。新たな取引は、「マイナー(採掘者)」と呼ばれるコンピュータ専門家によって検証と情報の更新が行われ、通貨価値の透明性維持に協力したマイナーには、報酬として新たなビットコインが発行されます。

マイナーになるほどのコンピュータ スキルがない人のため、中国や日本あるいはスロベニアに至るまで、オンライン取引所でビットコインを購入できるようになっています。ビットコインを発行するATMも登場し始めています。ビットコインの残高は、後でダウンロードして使用できる仮想「ウォレット(財布)」に転送されます。しかし、米国ボストン大学財務学教授のWilliams博士は、初期の「マイナー」を主とする47人がビットコイン全体の29%を所有し、わずか800人がなんと50%を占有していると推定しています。これにより、供給量をしぼり高値が維持されるよう供給調整されるリスクが生じます。

 「われわれはビットコインが電子商取引の主要な決済手段になる可能性があると考えています。」

DAVID WOO
BANK OF AMERICA MERRILL LYNCH社グローバル金利・為替調査責任者

価値の問題に対しては、解決策もいくつか生まれています。たとえばBitPay社は、取引を保証レートで従来の通貨に両替することで、小売業者を通貨リスクから保護しています。Ripple Lab社の送金ネットワークでは、ビットコインのライバル電子通貨であるXRP向けに同様のサービスを提供しています

ハッキング対策にも課題があります。ビットコイン自体は、公開台帳のおかげでほぼ難攻不落ですが、いくつかのオンライン ビットコイン取引所がハッカーに侵入されました。2014年2月、世界最大のビットコイン取引所を運営する日本のマウントゴックス社は、4億6,000万米ドル相当のビットコインがハッカーによって盗まれたことを認めた後、破産を申請しました。それがビットコインに対する信頼への打撃となり、価値が急落するに至りました。

ビットコインは匿名での取引や売却が可能なため、犯罪者も引き寄せます。最近注目を浴びた2件の逮捕は、ビットコインの闇の側面を浮き彫りにしています。24歳の起業家で、非 営 利 の ビ ットコ イ ン 啓 蒙 団 体Bitcoin Foundationの 理 事 を 務 め て い たCharles Shrem容疑者は2014年1月、マネーロンダリングの罪で米国当局に起訴されました。また、2013年10月には、オンライン麻薬取引所Silk Roadの 黒 幕で あるとして、29歳 のRoss Ulbricht被告が麻薬取引とマネーロンダリングの容疑で逮捕されました。

その後、中国政府がビットコイン取引の取り締まりを発表すると、ビットコインの価格は急落。また、ロシアやベトナムなどの国ではビットコイン取引を違法化すると表明する政府も現れました。

暗号通貨の未来

新たな通貨の価値が絶えず変動するのは、市場がその真価を見きわめようしているからで、一般的なことだとMarti氏は指摘します。Marti氏は、ビットコインの最近の窮状にもかかわらず、ビットコインで不動産と高額な美術品を販売する自身のビジネスは「急激に拡大中」であると述べています。ビットコインに対応するオンライン小売業者も増加中で、英国北西イングランド地方のカンブリア大学では、授業料の支払い方法としてビットコインを受け付けています。

米国政府は仮想通貨に対する立場を明らかにしていません。実のところ、米国連邦準備制度理事会(FRB)議長に新たに就任したジャネット・イエレン氏は米国連邦議会に対し、サイバー通貨は完全に管轄外であると述べました。他の政府規制当局もこれに倣うとすれば、暗号通貨を見限るのは時期尚早かもしれません。◆

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