ますます拡大するスキルの落差により、世界中の企業の持続可能性が脅かされています。このように述べると、それはハイテク分野の話だと思われるかもしれませんが、そうではありません。溶接工やボイラー製造人、航空機パイロット、医療技術者などの「中スキル」の職において、多くの企業が大変な問題を抱えているのです。これらの職は高等学校の卒業に加えて訓練を必要としますが、4年をかけて学士の学位を取得する必要はありません。
たとえば米国では、ワシントンDCを拠点とする全米技術連合(NSC)の報告によると、53%が中スキルの職ですが、このレベルの訓練を受けているのは米国の労働者のわずか43%です。これは、数百万の職に人材が提供されないまま、他方では、数百万人の大卒者が無職または能力以下の仕事に就き、学位取得のための4年間に積み重なった相当額の学生ローンの返済に苦労しているという、途方もない落差を意味します。
これは米国だけの問題ではありません。フランスの投資銀行Bifranceによる、「中小企業と中規模企業に人材を引き付ける」と題された2018年の研究では、フランスの中規模企業10社中9社が採用において困難に直面していることがわかりました。欧州全域、日本、インドなど大半の工業化の進んだ国々で、実際に雇用者が同様の報告をしています。
NSCの連邦政策シニアアナリストであるKatie Spiker氏は、「労働者の教育および研修への投資は不十分になっています」と述べます。「[米国における]労働者育成のための出資は、過去20年間にわたり40%減少しています。我が国の労働者と企業に必要な投資を行わないならば、21世紀の経済競争を戦うことはできません」
カリフォルニア州のオレンジコーストカレッジ(OCC)でテクノロジーの学部長を務めるDaniel Shrader氏は、中スキルの人材不足の影響は世界規模の問題だと指摘します。「英国、アフリカ、米国と住む場所にかかわらず、環境を改善し、地元での製品の製造を可能にし、より強く発展するコミュニティを形成するためには、私たちはこれらの中スキルを持つ人材を必要とします」
原因の特定
海洋産業で働く人材を育成するフランスの学校、Le Campus des Industries Navalesの学長であるDominique Sennedot氏は、日常的にその影響を見ています。
「現在、造船業では相当なスキル不足に直面しています。フランスの海軍産業の現雇用者は約4万2,000人ですが、今後3年間に6,000以上の新たな雇用を創出すると予想されます。私たちは資格要件を満たす従業員を必要とする16の産業を特定しました。これらの産業における人材不足のため、一部の企業では契約の履行が難しく、契約を断らざるをえない状況にあります」
米国西海岸のワシントン州では、エバレット・コミュニティ・カレッジのCenter of Excellence for Aerospace & Advanced Manufacturingのエグゼクティブディレクターを務めるMary Kaye Bredeson氏もこの落差について触れ、中スキルの労働者が退職していく中で落差は拡大するものと見ています。
「今後10年間に人材不足は200万人以上となるでしょう」と彼女は述べます。その理由の1つは何でしょうか。「両親、教育者、社会が、人生の成功には4年生大学卒の資格が必要だと言ってきたからです」
「実際、中スキルのよい職は、その職務を果たすために訓練された人材が不足しているために、なり手がいないのです」
JOSEPH FULLER氏
ハーバード・ビジネス・スクール教授
しかし、中スキルの職では多くの4年生大学卒の職と同程度の経済的利益とキャリアアップを望むことができ、しかも高額な学費を払わずに済むと、彼女は指摘します。さらに、歴史学や社会学などの学位とは異なり、これらのスキルには高い需要があるのです。
たとえば航空宇宙産業では、「4年生大学卒の学位を必要とする職が約50%、技術系の職が50%です」とBredeson氏は述べます。「ますます多くの職能団体が、実際に人材不足の警鐘を鳴らすようになると思います」
ハーバード・ビジネス・スクールで中スキル教育の問題を研究してきたJoseph Fuller教授は、「4年生大学の教育プログラムでは、多くの雇用者が必要とする実地学習の機会を提供していません」と語ります。こうしたスキルを教えるのは、専門学校やコミュニティカレッジが中心となる傾向がありますが、これらの学校は資金不足に悩まされ、また、政府の課す条件により教育プログラムと企業が実際に必要とするスキルとの不一致が生じています。
「徒弟制度のように働きながら学ぶ機会が少なくなっています」と、Fuller教授は述べます。「これは、企業の採用候補者プールを満たすのが、雇用者のニーズと無関係なスキルを持つ人材ばかりということを意味します。実際、中スキルのよい職は、その職務を果たすために訓練された人材が不足しているために、なり手がいないのです」
米国政府の公的資金の大半は、4年生大学とその学生たちに向けられています」と、Fuller教授は述べます。「こうしたスキルの訓練や再訓練に向けられる年間の出資額は大幅に少なく、雇用者が提供する訓練の場合には政府はほとんど出資しません」
その一方で、テクノロジーの進展により中スキルの労働者が果たす役割はますます高度となり、その訓練コストは増大し続けています。
「教育機関が訓練で使用する先端テクノロジーの設備を購入する場合、その費用はかなりの金額となります」とShrader氏は述べます。「しかしこの投資により、中等学校の生徒たちが魅力的な技術系キャリアに触れてこれを認知し、工業分野の中スキルの職種を目指す若者が大幅に増えることになります」
これらの職で数十年働いてきた労働者が高齢となり引退するにつれ、毎年この落差は拡大しています。「航空、宇宙、防衛産業では、多くの従業員が退職しつつあります」と、フランスの航空機製造大手のサフランで人事部デピュティーディレクターを務めるBertrand Delahaye氏は述べます。
問題への取り組み
企業と教育者は協力してこの落差を埋める取り組みを進めています。中スキルの訓練プログラムを開発し、学生をインターンとして採用し、実際のハイテクの職場で働く準備をさせています。
フランスの製造企業、見習い訓練センター、職能集団のコンソーシアムにより設立されたパリ近郊の訓練施設、CampusFabは、そのような取り組みの1つです。
「私たちがCampusFabを設立したのは、初期訓練、見習い訓練、現任訓練を通じてこの問題への解決策を提供するためです」と、Delahaye氏は述べます。このプロジェクトもまた、フランス政府およびパリ自治体から資金援助を受けています。
「これらの産業における人材不足のため、一部の企業では契約の履行が難しく、契約を断らざるをえない状況にあります」
DOMINIQUE SENNEDOT氏
LE CAMPUS DES INDUSTRIES NAVALES 学長
Le Campus des Industries Navalesも同様に、フランス西部の主要産業と協働し、業界のニーズを満たすよう教育プログラムの調整に取り組んでいます。
「当校は産業からのニーズの表明と訓練実施者を結びつけ、訓練実施者が補完的スキル要素を統合して学生を「雇用可能」な人材に育成できるようにします」と、Sennedot氏は述べます。
潜水艦および船舶の設計、生産、サポートに携わるフランス西部の企業、Naval Groupは、最近のプレスリリースにおいて、2018年には1,500人以上の従業員を新たに採用したと発表しました。そして、「特に職業訓練分野におけるCampusの海軍産業への取り組みにとっては、この機運は継続する」と述べています。
OCCのShrader氏は、CampusFabと海軍産業の取り組みは、まさに雇用者と教育者が行うべきことだと語ります。製造産業がサプライチェーンを編成するのと同じ仕方で教育を編成することも、双方に利益をもたらすと同氏は述べています。
「SpaceXやNorthrop Grummanのようなティア1の製造企業が必要とする部品の一部は、ティア2のプロバイダーとの契約を通じて調達できます」とShrader氏。「ティア2のプロバイダーは、カレッジが提供できる以上の機械工や工具製作者を必要とするので、私たちがティア3のプロバイダーになることを交渉します。この契約は収益の流れを生み出し、カレッジが設備のアップグレードやメンテナンスおよび素材の費用を相殺できる一方で、学生たちは支援体制の整った環境で業界に特有の部品を製造することができます」
「そして、ティア2の製造企業は学生たちの労働力としての質を評価し高めることができ、それが指導の向上につながります。企業はまた、インターンシップを提供することで、労働の経験と就職のチャンスを提供できます。この方法でサプライチェーンに介入することで、コミュニティカレッジの財政面を支援し、教育プロセスを活性化し、業界の重要パートナーを引き付けることができます」
ワシントン州では航空機メーカーのボーイングが主要な雇用者であり、機械および電子工学のスキルの需要が高いことにBredeson氏は気づきました。この人材不足に対応するために、同氏は「航空宇宙産業で働こう」キャンペーンの展開を支援し、アマゾンのような注目度の高い企業に奪われがちの人材を引きつけようとしました。
「これらのワークショップでは、パイロットになるチャンスについて話しています。多くの企業は、従業員を引き留める必要性から授業料を提供するとともに、追加訓練の奨励や提供も行っています」
「現在、多くの[コミュニティ]カレッジが人工知能や拡張現実、仮想現実を活用し、学習体験をよりリアルなものにしています」
MARY KAYE BREDESON氏
エバレット・コミュニティ・カレッジ CENTER OF EXCELLENCE FOR AEROSPACE & ADVANCED MANUFACTURING エグゼクティブディレクター
「航空宇宙産業で働こう」セミナーに参加する学生たちは、即座に中スキルの職が魅力的である理由に気づきます。労働者は、ハイテク産業における多くの最先端テクノロジーを使用するスキルを持つ必要があるからです。
「他のパートナーの支援により、現在、多くのカレッジが人工知能、拡張現実、仮想現実を活用しています」とBredeson氏は述べます。「たとえば医療分野では、看護師の訓練には高価なマネキンではなくアバターやシミュレーターを使っています。これにより学習がよりリアルとなります。同様に、私たちも学生を教えるのに仮想現実ラボや拡張現実をさらに利用したいと考えています。また、学校以外で学生が都合のよいときに学べるように、さらにオンライン講座を増やしたいと考えています」
ハーバード大学のFuller教授は、中スキル労働者を継続的に供給するパイプラインの確立には、ボーイングの方法がグローバルなモデルとなりうると指摘します。
「ボーイングが迫りくるスキル落差を突き止める場合、同社は通常、地理上の特定地域内でそのスキルを持つ数千人の従業員を必要としています」と、Fuller教授は述べます。「ボーイングは教育界やコミュニティのパートナーと協力してカリキュラムを策定し、自社にとって欠かせないスキルのニーズを確実に満たすようにすることができます。米国におけるデータでは、作業しながら学習する機会が、人材プールを大幅に拡大することが強く示唆されています。したがって自動的に、教育界と雇用者のコラボレーションが必要となるのです」
コラボレーションが鍵を握る
企業が敎育界と協力し、需要のあるスキルを特定し、適切な訓練プログラムを開発する傾向が強まっているのはよい展開です」と、Fuller教授は語ります。「将来に期待するものを実際に定義し、必要となるものを予測できるのは企業だけです」
NSCのアナリストであるSpiker氏はこれに同意するとともに、敎育界と企業のパートナーシップは、企業が業界全体における共通の目標とニーズを特定する際の力となると付け加えます。
「このパートナーシップは、企業がコミュニティやテクノロジー分野のカレッジのみならず、補完的発展に役立ちうるコミュニティ団体ともより効率的に協力するのを支援します。また、敎育プロバイダーが業界の需要にうまく対応する最善のカリキュラムを作成または開発するのを支援します」
企業と敎育界のコラボレーションは、テクノロジーの進展と役割の継続的進化の中で、教えられるスキルが決して時代遅れとならないようにする上でも役立ちます。また、Shrader氏が述べるように、コラボレーションはコミュニティごとに行われるときに最も効果的となります。
「中等学校からカレッジ、就職へと至る経路を職業準備敎育と統合することは、非常に重要な要因です」と、Shrader氏は述べます。「地元の学校が人材育成に協力し、コラボレーションできるかどうかにかかっています。ロボット工学や仮想体験、デジタルテクノロジー、カレッジ見学、そして、カレッジでの技術訓練プログラムや業界でのキャリアのチャンスに対する生徒の意識と適性を高めるすべての企画を通じて、中等学校という早い時期にエンジニアリングや設計、製造の考え方を学び始めることが重要です。さらには、この早期スタートにより、コミュニティカレッジはいっそう先進的で堅固なカリキュラムを提供できるようになり、学生たちが先端研究や業界または起業家としての追求によりよい準備体勢を整えられるようにすることができます。これは対費用効果の高い方法であり、地元や地域の発展を促します。これは、グローバルな視点で考え地域で実行するという考え方の敎育の場における実践です」
ワシントン州において業界パートナーと34のコミュニティカレッジの接点として活動するBredeson氏は、Shrader氏に同意します。「特定の電子機械工学のプログラムが産業界にとって十分ではない理由を[個々の]カレッジに伝えるのに、産業界は非常に苦労してきました。そのため私たちは、産業界をカレッジに引き込み、DACUMと呼ばれる手法でカリキュラム開発を行っています」。対話を促すことによって、Bredeson氏は両者の明確な意思伝達を支援しています。
確実に成功するためには、高等学校に入学する前に生徒たちにプログラムを提供する必要があると、Bredeson氏は述べます。
「ウィスコンシン州ケノーシャでは、産業界、学校、いくつかの企業が提携するプログラムがあります」と、同氏は述べます。「中等学校のうちから、どの子どもも週に一度は製造企業の研究所を訪問し、男の子だけが製造業や建設業に進むのだというステレオタイプの考え方を取り除きます。また、生徒たちに基本的スキルを教え、安全性や数学、チームワークの重要性を強調します。子どもたちがデジタルワールドに関心を持つようになる素晴らしい方法であり、格好のモデルです。小さなうちから男の子も女の子も製造企業の研究所を体験するということがどんなことか、想像できるでしょうか」
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