無燃料飛行

ソーラー・インパルス チームが代替エネルギーによる 初めての世界一周飛行に挑戦

Lindsay James
19 October 2014

ソーラー・インパルス チームは「太陽エネルギーで昼夜飛行可能」の飛行機を製作しました。COMPASS誌では、共同設立者でパイロットを努めるベルトラン・ピカール氏とアンドレ・ボルシュベルグ 氏に、持続可能な交通手段の限界に挑む今回のプロジェクトについてお話を伺いました。

スイスの精神科医で気球パイロットで もあるベルトラン・ピカール氏の探 究心は生まれながらのものです。彼 の祖父は、地球が丸いことを自分の目で見た 最初の人物であるオーギュスト・ピカール氏 で、父はマリアナ海溝で海面下10,916mの海溝底まで潜行したジャック・ピカール氏です。

ピカール氏は次のように述べています。「父 や祖父のおかげで、私は多くの冒険家と先駆 者に会いました。チャールズ・リンドバーグや ヴェルナー・フォン・ブラウンなど、歴史を 作った刺激的な人たちに会ったのです。私は 彼らのように魅力的で有益な人生を送りたい と思っていました」

1999年、ピカール氏は初めての無着陸世界 一周気球飛行を成し遂げました。「3.7トンの 液体プロパン・ガスを積んで飛び立ち、20日 間で45,000km飛んで着陸したときの残りは 40kgでした。飛行の間ずっと、燃料ガスが足 りなくな のではと心配していたので、次に 世界一周飛行する時は、燃料なしでやってや ろうと決心したのです」 

動力源は太陽

その後数年、ピカール氏は無燃料で地球を 一周するという構想の作業に、数え切れない ほどの時間を投じました。

「まったく燃料を必要とせずに昼夜飛行でき る、太陽がエネルギー源の飛行機を想像して みてください。実現できれば、こうしたクリー ンな新技術で、不可能と思えることも達成で きるという証明になります」とピカール氏は語 ります。

2003年、ピカール氏はスイス人の起業家で パイロットのアンドレ・ボルシュベルグ氏と協 力することになりました。ボルシュベルグ氏 は、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で 経営と科学の学位を取得したエンジニアで、 スイス空軍において20年を超える飛行経験 を積んでいます。彼らは6ヵ国から集まった50 人の専門家が含まれる、複数の技術分野を カバーするソーラー・インパルス チームを 設立しました。このチームは、先見性トチャレ ンジ精神に富んだ飛行計画において、およそ 100名のアドバイザーと80社にのぼる産業界 vのパートナーから支援を受けています。

ボルシュベルグ氏は次のように述べています。 「太陽だけを動力源にして昼夜飛行可能にす るには、とてつもなく長い翼幅を必要としま す。ソーラー・インパルスの翼幅は72mで、こ れはボーイング747より大きいのです。ただ し、機体は極めて軽量にしなければならず、 747の約333トンに対して、ソーラー・インパ ルスはたったの2,300kgしかありません」

「基準になるものは何もありませんでした」と ピカール氏は付け加えます。「あらゆる点で 革新的なプロトタイプを創り出すために、概 念案をプランにまとめ、設計する必要があり ました。その後で、製造、テストを経て、のあ と世界中を飛行させるわけです。これは本当 に困難なプロジェクトですが、それこそが、私 たちがこれほどの情熱を傾ける理由です」

ソーラー・インパルスの創始者、会長、パイロットのベルトラン・ピカール氏(左)と、共同設立者、CEO、 パイロットのアンドレ・ボルシュベルグ氏(右)(画像©ソーラー・インパルス | Revillard | Rezo.ch)

歴史的な初めての試み

2010年に完成したソーラー・インパルス1は、 史上初めて無燃料で24時間飛行しました。 ソーラー・インパルス2は2015年に世界一周 を試みる予定で、さらに少ないエネルギーで より優れた性能を発揮する必要があります。 ボルシュベルグ氏は次のように述べています。

「通常、新しい機体を製造する場合は既存の エンジンを流用しテストします。客に新しい エンジンをテストする場合、既存の機体を 使って行います。しかしこのプロジェクトで は、推進方法も、エネルギーの種類も、構造 も新しいため、 雑さのレベルが信じがたい ほど高度になりました」

プロジェクトの実現には3D技術が重要な役 割を果たしてきました。ボルシュベルグ氏は 次のように振り返っています。「飛行制御系の 設計を始めた時、航空機設計の知識が非常 に豊富なアドバイザーに相談しました。制御 系を翼とコックピットに組み込む方法を見つ け出すのに3Dソフトウェアだけを使用してい ると彼に言うと、そんなやり方は前例がない、 たくさん問題が出るから、最初はモックアッ プを製作しろ、と言われました。私たちは、自 分たちのやり方に自信を持っていると答え、 初心を貫いて実施して、最終的には、それで うまく行きました」

「もちろん失敗する 可能性もありますが、 それはたいしたことではありません。 最悪なのは失敗することではなく、 挑戦しないことです」

ベルトラン・ピカール
ソーラー・インパルス

チームは現在、最終テストを実施中です。「五 日五晩の間飛ぶのに必要な支援システムを 搭載しました」とピカール氏は語ります。「こ のシステムはすべてが完璧に動作する必要 があり、今後数ヶ月にわたってテストを行い
ます」。世界一周飛行計画は、2015年の3月初
めから7月末まで、5ヵ月にわたって実施され
る予定になっています。

同機は赤道の少し北を周回する予定です。パ イロット交代のため、インド、ミャンマー、中 国、米国、そして南ヨーロッパまたは北アフリ カで途中降機が行われます。

歴史を作る準備

35,000kmの飛行には、厳しいトレーニングが 必要です。ピカール氏とボルシュベルグ氏は 交代で飛行機を操縦し、小型自動車のキャビ ンと同等の、加圧されていない3.8立方メート ルのコックピットで約500時間の飛行時間を 重ねます。

ボルシュベルグ氏は次のように述べています。 「重量制限のため、一度に1人のパイロットし か搭乗できないので、パイロットが持ちこた えられるようにする必要があります。ピカール 氏と私は、温度と高度の変化を除けば実際の 飛行機と同じ条件のフライト シミュレータで 三日三晩過ごします。自動操縦システムのお かげで休憩時間を最大20分確保でき した。 このトレーニングは、睡眠不足になったとき に人がどのように行動し、感じるかを理解す る助けになりました」

「すべてが限界まで 追求されています」

アンドレ・ボルシュベルグ
ソーラー・インパルス 共同設立者、CEO、パイロット

冷暖房がなく、パイロットは30°Cからマイナ ス20°Cにわたる過酷な温度条件にさらされ ることになります。ピカール氏とボルシュベル グ氏は、コックピットに組み込まれた高密度 断熱フォームで保護されます。

「準備には二つの方法があります。一つは完 全に熟練するためにテスト飛行すること、も う一つはすべてシミュレーションで済ます方 法です。私たちの飛行計画チームでは、この 飛行機を最適なルート、最適な高度、最適な 軌道、最適な気象配置を選んで飛ばすため に、実際の気象パターンを使って定期的にシ ミュレーションを実施しています。現在ではか なり効率的に、それを実現する方法が分かる ようになっていて、2015年の本番飛行にこの 知識をすべて活用するつもりです」(ピカール 氏)。

両氏にとってプロジェクトの魅力は、パイオニ ア精神、イノベーション、クリーン テクノロ ジーがどのように世界を変えられるかを実証 することです。

「エネルギー源として太陽だけを使って飛 行 機を飛ばすことができれば、間違いなくこれ らの技術を地上でのエネルギー節約にも利 用できます」とボルシュベルグ氏は語ります。

ピカール氏も同じ意見を持っています。「実際 の効果として、よりクリーンな技術でエネル ギー消費の削減も可能だと人々に理解しても らえればと思います。化石燃料を使用せずに 再生可能エネルギーを生産できれば、人の 生活を完全に変えることができます。」

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